座右の銘
「座右の銘は何ですか?」という質問への答えは、ずっとこうです。
『誰でも可能性を秘めている』『誰にでも花開くのを待っている才能が必ずある』
人と向き合う時にも、自分自身を考える時にもこの言葉を念頭に置きます。
【恩師の言葉】
40年も前の話です。
リクルートに入社してすぐに、多くの年上のアルバイトのメンバーを束ねるリーダー的立場に立たされました。
私が仕事の指示を出し、回していかなければいけないわけですが、何しろ入ったばかりの新入社員ですから、皆さんに思うように動いてもらえません。
このような無茶ぶり的配置は、リクルートではごく当たり前でした。
失敗ばかりが続き、にっちもさっちも行かず休みがちな数ヶ月を過ごしていました。
当時の課長のO氏に会議室に呼ばれました。
「お前、辞めようとしているだろう?」
図星でした。
「これは大変な会社に入ってしまった。自分のいるところではない」
と、日々逃げ出すことばかり考えていたのです。
課長は、続けてこう言います。
「とにかく辞めることはやめろ。人事部がお前の才能と可能性を見い出して採用しているんだ。今、自分ではわからなくても、後から必ずわかる時が来る」
「誰でも可能性を秘めているんだ」
「誰にでも花開くのを待っている才能が必ずあるんだ」
さらに付け加えたのは、次の3つのことです。
1.自分の可能性を信じろ
2.新鮮な目で改善しろ
3.メンバーを知る努力をしろ
2つ目のことは、右も左も分からないからこそ、素朴な疑問を素直にアウトプットして改善することができる、ということ。あれ、おかしいなと思うことを自分の頭で考えて「こうしたらいいんじゃないか」というアイデアを出す努力をせよ、というのです。どんなにささやかなことでもいいんだと。
3つ目のことは「お前は、メンバーを動かそうとばかりしている。まずはひたすらその人のことを知る努力をしろ。人間関係の第一歩は、その人のことをよく知ることから始まるんだ、と。
素直さだけは誰にも負けない自信がありましたので、課長の言葉を忠実に行動することにしました。
その場ですぐに自分の可能性を信じるなどということはできなかったのですが、とにかく辞めることはやめて、コツコツと身の回りの改善の努力と、メンバー一人ひとりのことを知る努力を始めました。
【苦手なことの克服】
田舎者で、社会に出たばかりの私には、メンバー一人ひとりと向き合って、その人のことをよく知る努力は相当に骨の折れることでした。
・引っ込み思案
・人見知り
・話下手
そんな3点セットの私が、よくリクルートに入社できたものです。
一人でコツコツと粘り強く何かをすることは得意でしたが、対人関係はまったくの苦手分野だったのです。
逃げ出したい気持ちはずっと引きずっていましたが、課長に言われた言葉だけを頼りに、「新鮮な目で改善すること」「目の前の人のことをよく知る」ことを続けました。
リクルートは、強みにフォーカスしてくれる風土だったのですが、まがりなりにもチームのリーダー的立場に立たされた自分にとって、弱みを克服することは絶対的に必要でした。
必死でした。
・とにかく人のいる場に出ていき、一人でも多くの人に会って話す
・話し方を学ぶ(本で、話し方教室で、先輩に教わってetc)
・話題についていけるように、森羅万象、世の中のことを学ぶ
何しろ、強みがコツコツと粘り強く続けられることですから、人と向き合うこと、人前で話すことについては努力を続けました。
人事部長になり、人前で話すことが仕事の一部になってからは、こもりがちな声の改善のためにボイストレーナーについたり、スピーチトレーナーに教わったり、プロに学ぶ機会も作りました。
引っ込み思案で、人見知りで、話下手だった私が、現在は組織変革コンサルタントとして、研修講師として、ファシリテーターとして、人と向き合うこと、人前で話すことを生業とするようになっているんですから、人生とはわからないものです。
採用してくださった当時の人事の方が、私の何事も地道にコツコツと続ける強みを見てくださったのか、はたまた「人と向き合う」という仕事の、「話す」という仕事の才能のかけらを感じてくださっていたのか、今となってはわかりません。
しかしながら当時の課長の・・・・
「誰でも可能性を秘めているんだ」
「誰にでも花開くのを待っている才能が必ずあるんだ」
という言葉で、今の私があるということは間違いありません。
【組織における一番の罪】
ある時、こう訊かれました。
「今野さん、管理職になって一番やっちゃいけないこと、罪なことって何でしょうね」
こう答えました。
「部下の才能と可能性の芽を摘むことじゃないですか」
仕事上のたいていの失敗は、やり直しで取り戻すことができます。
やり直せばいいんです。
失敗は成功のもととは本当に真理だと思います。
しかしながら、やり直せばいい、と済ませることができないのが、若い部下の持っている可能性と才能を花開かせることなく、摘んでしまうことです。
就職をして最初に出会う上司が、部下の「才能」と「可能性」に意識のある人であるか、はたまた仕事を回すこと、成績を上げること第一で、部下を使い倒す人であるかは、神のみぞ知るです。
もっとも、上司に使い倒されことで、才能と可能性が花開くこともないわけではないのですが、くじ引きのようなもので大いなる賭けであることに変わりはありません。
【才能と可能性を摘む3つのこと】
若い人達の才能と可能性を摘もうと思ったら、それはとても簡単です。
次の3つのことをやってみてください。
<トップダウン>
仕事のコンセプトから具体的方法から、微に入り細に入り指示を出し、しかも部下のミスを見逃すことができない完璧主義。
部下からの提案、進言には「10年早い」と耳を貸さない。次第に部下は自分で考えることをやめ、言われたことを忠実にやっていく「指示待ち族」になっていく。一番成長すべき時期に「自分で考える」という行為をやめてしまった部下の行く末は・・・。
<タコつぼ化>
定期の人事の時期に、部下を対象に人事から異動の要請があっても、「今外されては事業部の目標達成が立ちいかない」「余人を持って代えがたい」「あと数年やってもらえると彼はもう一段成長のチャンスだ」等々、あの手この手で防御線を張って、部下を外に出そうとしない。そうこうしているうちに、他の部署に挑戦させることもできない年齢になってしまう。今の部署でもとうの立った微妙な存在になっていってしまう。こうした管理職の部署自体が発展性のないタコつぼと化していく・・・。
<物分かりがよい上司>
上司への相談が、部下の弱音であることは少なくないが、物分かりのいい上司がいる。
部下「これこれこういう事情で、この課題にこれ以上取り組むことができないんですが・・・」
上司「それは大変だったな。後はオレの方で何とかしておくから、他の課題に・・・」
部下「誰々さんがこういう態度なので、プロジェクトがうまく回りません。課長から言ってもらえませんか?」
上司「分かった。オレからよく言っておく・・・」
部下「今の仕事に自分は向いていないと思うんです。次の異動でぜひ・・・」
上司「そうか。適性は大事だ。考えておく・・・」
極端に書いているわけですが、管理職は、時々部下の機会を奪っていないかを振り返る必要がありますよね。
・自分で考える機会を奪っていないか
・いろいろな仕事へのチャレンジの機会を奪っていないか
・困難な状況に立ち向かう機会を奪っていないか
人生において、ある人の言葉が人生を変えたり、人生を支えたりすることがありますね。
「誰でも可能性を秘めている」
「誰にでも花開くのを待っている才能が必ずある」
この言葉を教えてくださった当時の課長のO氏は私の一生の恩人です。