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ティッピングポイント

【上が変わらないので】

これまで、多くの企業組織の活性化を支援してきました。

うまくいくことばかりではないんですが、うまくいかない理由の最大のものは、人事スタッフや変革プロジェクトのメンバーが「上が(経営が)変わらないんで」と内心思っているということにあると思うんです。

社長の方針だったり、経営会議で決まったことだったりすると、やらないわけにはいかないので、コンサルタントを雇って変革プロジェクトを始めますよね。

何度か会議をしていると、時々本気度を感じない時があるんですね。

どこに本音をお持ちなんだろう、と食事の席などで探ってみますと「どうせうちの上は変わらないので」「今の社長のうちは」というようなことをおっしゃるんですね。

このことは階層が下になっても同じです。

課長さんの研修などで、例えば「GOOD&MOREの考え方で、うまくいっていることをきちんと見てそのうえで足りないところをどうするか考えましょう」と、投げかけたとしても「でも今野さん、うちは部長が皆BAD&NOで当分変わりませんよ」ということをおっしゃる方も多くおられます。

無理もないことかと思うのですが、そういう場合に、上が変わったとしますよね。

親会社から社長さんが定期的にやってくる会社のような場合に、今度はこういうことが起こります。

さあ、上が変わったんだから変えていくチャンスだと期待していると、今度来た社長さんがまったく違う組織上の方針を出されまして。

人事の皆さんは「ハハ~」とひれ伏して、今までの取り組みが中断し、コンサルタントは解約され、社長のお知り合いのコンサルタントが登場するということになります。

その先がどうなったかまでは触れませんが、要するに「上が変わらないので」という言葉を言い訳に、変革を進めていくべき部署の方々が意思を持っていない、責任感を持っていないという話なんです。

企業規模によりますが、変革の計画には短くても2年、長い時には4~5年かかります。

色々な施策(特に仕組みや制度など)は年度単位で回っていることが多く、1回転では何も分からず、2回転して初めて問題点が見えてきて、3回転目でうまくいき始めるというようなことですね。

意思を持った地道な取り組みはどうしても必要です。

【ティッピングポイント】

「ティッピングポイント」という言葉はご存じですよね。

ワシントンポストの記者だったマルコム・グラッドウェル氏が2000年に著した同名の書籍は、全米で200万部の大ベストセラーになり、すぐに日本でも発売されましたがさほど売れませんでした。おそらく「ティッピングポイント」という言葉になじみがなかったせいだと思います。ものすごくもったいない話だと私は思います。

20年近く前の本ですが、今読んでもその内容はいささかも色あせることなく、学びの多い本です。

そもそも、ティッピングポイントとは何か。

直訳すれば「傾く(tipping)点(point)」です。

物の販売や、伝染病など世の中に広まるものは最初から一気に広まることはなく、突然急激に広まり始めるポイントがある。そうした「臨界点」のようなところを「ティッピングポイント」と言うんだそうです。

例えば、次のようなものがティッピングポイントです。

・ある1つのブランド商品の人気に火が付くきっかけとなる出来事

・伝染病が爆発的に蔓延するきっかけとなるちょっとした変化

・1984年に発売されたファクシミリがその3年後の1987年に達成した100万台という販売実績

ティッピングポイントには次の3つの法則があると言います。

  1. 少数者の法則

  2. 粘りの要素

  3. 背景の力

例えば、ファクシミリの例で言えば、当然最初はファクシミリを使う人など限られていたわけですが、それが、ある時点を境に一気に普及し始めるのには、どんな要因が絡んでいるのか──という事例をもとにこの3つの原則を当てはめてみます。

①少数者の法則

ファクシミリが便利な道具であるから、という以上に、人にその便利さを伝えるのが得意な、あるいはその労を厭わないという特別な能力を持った人の手に渡るかどうかがカギとなります。今で言えばインフルエンサー的な人ですね。

②粘りの法則

また、たとえ便利さをアピールされたとしても、それが簡単に忘れられてしまうようでは拡散は期待できないわけですね。

それゆえ、「便利である」というメッセージになるべく強い印象を添えて「頭にこびりついて離れなくなる」ようにする必要があるわけです。

本書の言葉を借りれば「記憶に粘りつく」ようにするわけです。

③背景の力

そして、広まっていくためには、さらに背景、すなわち環境の条件や特殊性に大きく左右されるというわけです。

『背景の力』とは、「伝染が、背景―環境の条件や特殊性―に大きく左右される」ということです。

本書では、ニューヨークの地下鉄の治安が急速に改善された例が「割れた窓理論」として紹介されています。

劣悪だったニューヨークの治安が改善されたのは、何も凶悪な犯罪者を片っ端から捕まえたからではなく、落書きをされていた車両をきれいにし、割れた窓を補修し、無賃乗車を排除して、地下鉄が置かれていた環境を改善したからに他ならないと結論付けています。

人々の行動に影響を与える環境の要素は侮れないということを強調するものです。

ティッピングポイントの説明が長くなってしまいましたが、組織の世界でもこの「臨界点」の考え方が適用されるのではないかと、私は考えています。

【ある会社のティッピングポイントの例】

こうしたティッピングポイントの例は、組織変革の世界でも起こります。

私の組織変革のメソッド中心は、GOOD&MOREの考え方を組織全体ですることによって、前向きな風土を作り、エネルギーを上げ、戦略の実行速度を上げていくというものです。

第一線の組織の長である「課長」さん方に、GOOD&MOREという考え方を知っていただいた上で、それを活かし自分たちのチームをどう変えていくかを具体的に考えてもらうセッションを行います。

場合によっては2回3回と行うことがあるのですが、反応が二極分化します

「なるほど、これはうまくいくかも知れない、自分なりにやってみよう」

とできることから始める人たちと・・・・

「考え方は分かるけど、上が変わらないので何をやってもどうせ変えられない」

と何もしない人たちです。

半年、一年と何も起こっていないように見えたのですが・・。

この会社さんの場合には、1年後ぐらいに異変(よい意味の)が起き始めました。

まず、研修に参加した課長の皆さんの中で、具体的な取り組みをされている方同士の情報共有が始まります。

「課の会議のやり方をこんな風に変えた」

「プロジェクトの進捗管理に前向きな振り返りを入れてこう変えた」

「部下との面談をこんなやり方をしてみた」

中には、私あてに取り組みを報告してくださる方も・・。

そういう場合は人事に報告して、人事から全員の課長さんに共有していただきました。

そうこうしているうちに全社的な会議のやり方や、評価制度のフォーマット等もGOOD&MOREを取り入れて、前向きなものに変えていこう、と全社レベルの取り組みに発展します。

ここまで来ると、「上が変わらないので・・」と言われていた「上 = 社長、役員」の皆さんが社内の変化を認識するに至ります。

しばらく経ったある日、人事部長さんから電話をいただきました。

「社長が、経営会議、役員会もGOOD&MOREの考え方で、前向きな会議にしたいと言い出しました」という内容でした。

この瞬間が、変わらないと言われていた、上が変わった瞬間です。

ことほどさように、上が変わるのは最後、ということも少なくないわけなんです。

これは、変革スタッフ(主管:人事部)の粘りの勝利です。

ティッピングポイントの3つの法則を思い出してください。

  1. 少数者の法則

  2. 粘りの要素

  3. 背景の力

この会社さんの例でも、最初は研修を受けて実際にやってみようと思った、心ある少数の課長さんから始まっています。

そして、何の変化も起こらない状態でも焦らず、課長さん方の小さな変化(成功事例の共有)を見逃さず、全社の動きに変えていった人事部の粘りが重要でした。

さらには、社内の状況を見ながら、徐々に仕組みを変えていって、当たり前の状態を作っていくという環境の変化を、積極的に演出したことも勝因です。

変革に関わる皆さんは、「上が変わらないので」をぜひとも禁句にしていただいて、ティッピングポイントを信じて、ぜひ粘り強く取り組みを続けていただきたいと思います。

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