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WHYから始めよ!


〈複合機のエンジニアのMさん〉


オフィスでは、ずっとR社の複合機を使わせてもらってます。


フィニッシャーと紙折機能も付いた優れものです。


一番多い仕事は、研修のワークシート、テキストの作成ですね。


特にテキストについては、中綴じのできるフィニッシャー(自動ホチキス)が手放せません。


定期点検と、酷使しているが故の故障の修理に決まったエンジニアのMさんが来てくれます。


とても気のいいエンジニアの方で、次第に来られた時に会話するようになったんですね。


ある日の修理が終わった時の会話です。


今「いやあ、Mさん、早目に直してもらえて助かりました。ちょっと大きな研修が迫っていたんですよ」


M「よかったです。今野さんの研修ってどんな研修なんですか?」


今「課長さんなどの管理職の皆さんに集まってもらって、部下一人ひとりのエネルギーや、職場全体のエネルギーを上げるにはどうしたらいいかを一緒に考えるんですね。それと・・・(以下省略)


M「初めて聞く話で新鮮です。自分の修理が今野さんの研修に直接役立っていると思えました」





Mさんは、「お客様の仕事内容を知るのはいいですね。やる気倍増です」とおっしゃっていました。


自分が修理したり、定期に点検したりしている複合機という商品が、どのように役立っているかをイメージするということですね。


言い方を変えると、複合機を使っている顧客(株式会社GOOD and MORE)が、複合機で作ったテキストを使って研修を実施している現場をイメージする。

株式会社GOOD and MOREが顧客に提供しているサービスもイメージする。


このような姿勢を「カスタマーズカスタマーズサクセス」と言うんだそうです。

素晴らしいことですね。


最近は、エンジニアの方にも「営業姿勢を持て」というような指示をしている会社もありますから、経営の方針なのかもしれません。

また、エンジニアの本来の役割からすれば、深入りし過ぎという考え方もあるかもしれませんが、とても大事なことだと思います。


顧客の顔も見えにくくなっている今だからこそ、顧客が自社商品を使ってそのまた先の顧客にどのような価値を提供しているのかまでイメージできている会社のスタッフの充実度、やる気、エネルギーは高いと思いますし、仕事の質にも影響を与えるように思います。


A:普通の考え方:自分の仕事は複合機の点検と修理である


B:Mさんの考え方:自分の仕事は複合機の点検と修理という仕事を通じて、お客様のその先のお客様への価値提供に貢献することである



Aの場合は、点検と修理という「作業」が目的になっていますが、Bの場合は、お客様がそのまた先のお客様に提供している「価値」が目的になっているわけです。


目の前の作業を目的にして終わるのではなく、自分は目の前の仕事を通じて「結局何をしていることになるのか」「自分が最終的に世の中に提供できている価値は何なのか?」を考えること。


これを「WHYを考える」と呼んでいます。




〈某社の課長研修にて〉


某社の営業マンの退職率が高く、業績も上がらないということで、営業課長さん方の研修をした時のことです。


皆さんのお話を総合すると、一言で言って「疲弊が限界に来て退職に至っている」という状況です。


・セールスの業務フローを見直す

・社内の体制見直しで、営業マンを増強する


ということをやるんですが、もう一つ大きな問題(私は最大の問題だと感じたのですが)は、営業マネジャーのマネジメントが「とにかく目標達成のみ」になっているということです。


営業マネジャー研修で「WHYを語る」というプログラムに取り組んでいただきました。


一人ひとりで「自分たちの仕事の目的」「物を売っているように見えて、結局は何をしていることになるのか?」

ということを付箋に思いつく限り書き出していただいて、グループで話し合っていただきました。


・○○○を売っている

・目標達成をして会社に利益をもたらす

・営業部長の○○さんを男にする

・評価を高めて給料を上げる


といった目先のこと、作業を目的にしたことを書く方が多いのですが、グループでのディスカッションになると、徐々に「提供価値」の話になっていきます。


ある方「○○○を売っている」

他の方「それってやっている行動を言っているだけだよね。○○○を売ることを通じて結局お客様に提供できている価値が何かを考えないとWHYにならないよね」


そんなプロセスを経て、自分なりの「WHY(自分の仕事の本来の目的、最終的なお客様への提供価値は何か)」の表現ができたところで、二人一組(お互いに上司役部下役になって)で、それを伝え合ってみるというロープレをします。


ベテランらしきペアが、雑談をしてロープレにまじめに取り組んでくださいません。


声をかけると、大きな声でこのようにおっしゃいました。


「先生は営業の何たるかがわかってないよ。こんなこと伝え合ったからって売れるようにはならないよ。営業は足を使って、売ってナンボなんだよ」と。


後から人事の方に聞いてみますと、そうおっしゃった方の部署の退職が多いのだそうです。



もちろん、この研修は「営業マンがもっと売れるようになるためには?」というスキル研修ではないのですが、この方のように日頃「どうやったら売れるか?」が全てになっている方は少なくないですね。


毎日WHYを語れと言っているわけではないのですが、年に1~2回は立ち止まって「結局のところ我々は、目の前の仕事を通じて何をしていると言えるのだろうか」「どんな価値を提供できているのだろうか」と考え、部下と語り合う機会が必要です。


ところが、うまくいかないマネジメントの典型は「非常事態の時にだけWHYを語っている」わけなんです。



営業マン「課長、話があるのですが、実は会社を辞めたいんです(といきなり辞表が目の前に)」


課長「おいおい、突然何を言い出すんだ」


営業マン「とにかく売れ、売れ、目標、目標、でくたびれました。限界です」


課長「ちょっと待て。オレたちの仕事はモノを売っているようでいて、実はこんな価値を提供している大事な仕事じゃないか。やりがいを感じないのか?目標達成はその結果なんだよ」


営業マン「今更そんな綺麗ごとを言われても・・・・」


という具合に、辞表を見ながら日頃まったく口にしていない「本来の目的」「提供価値」を口にしますが、手遅れも甚だしいわけです。




〈ある経理部長の言葉〉


上にはたまたま「営業」の仕事の話を書きましたが、最も「WHY」の再認識が必要なのは、管理部門、スタッフ部門かもしれません。


ルーティーンの仕事が多くなり、いわゆる「回していく」日常の作業が目的化しがちな部分が多いという宿命を持っています。


これも某社で「自分の部署の仕事のWHYを考えてみる」というセッションをした時の話です。


個人ワークで考えてグループでお互いのWHYを相談するというプロセスを経て、経理部門の責任者の方が考えられたWHYが、グループの他の皆さんからとても好評を博しました。


行きついたWHYの表現は「我々経理部門の仕事は、社長を一流のパイロットにする仕事である」というものでした。


「社長がパイロットで、飛行機のコックピットに座る。目の前には我々が用意した様々な計器が並んでいる。パイロットが飛行機を無事に目的地に着かせるためには、どの計器も無くてはならず、しかも正確でなくてはならない。事故につながるからだ」


研修の後日談ですが、このWHYは、経理部門のしかるべき会議の席上で語られたそうなんですね。


多くの経理部員の心に大脳辺縁系に響いたようです。


「なるほど、であればパイロットが見やすいように、○○の資料はこのように変えてはどうか?」


「これこれこういう、経営分析をしてみたらどうか?」


などの、提案も出てきたそうです。



これは、「自分たちはパイロットである社長のコックピットとなり、安心安全な航行を維持することを支えている」

「パイロットが一流の操縦をするために、どんなコックピットにしたらよいか?」という考えに拍車をかけたわけです。


経理部員の皆さんが、経営者の視点を手に入れた言葉だったわけですね。



仕事のWHY(本来の、あるいは深い意味での目的や意義)には、この経理部長さんのように絶妙な隠喩、喩え話の能力が必要だと思います。


隠喩、喩え話の能力は、優れたマネジャーの要件であると私は思います。





〈WHYから始めよ!〉


アメリカのマーケティングコンサルタントの「サイモン・シネック」氏が著した「WHYから始めよ!」という本は、私の愛読書(繰り返し読む本)のひとつです。


この本の核は「ゴールデンサークル」という考え方です。


ゴールデンサークルは言ってみれば「魔法の輪」。


3つの輪からできていると言います。


一番真ん中が「WHY」、目的や意義ですね。


その外側が「HOW」、文字通りノウハウや、操作方法や、仕事をどうやってやるか?などの方法論です。


一番外側が「WHAT」、対象となる物や、何をするかという仕事内容そのもののこと。





サイモン・シネックは、普通のメッセージや、リーダーのマネジメントは多くが「アウトサイドイン(外から中)になっているが、うまくいっているメッセージやマネジメントは「インサイドアウト(中から外)」になっていると言います。


わかりやすい例として、独特のPCの開発から一大帝国を作り上げたアップルが取り上げられていました。



~サイモン・シネック「WHYから始めよ!」より~


アップルは典型的なインサイドアウトのコミュニケーションのアプローチをする会社である。


新しいコンピュータの発売の時に、普通の会社と同じようなやり方を取っていれば、こんな感じになったであろうと。



われわれは、すばらしいコンピュータをつくっています。

美しいデザイン、シンプルな操作法、取り扱いも簡単。

一台いかがです?



人を動かさずにはおかない宣伝文句とは言えないが、大半の企業はこんなふうにしてセールスに励んでいる。


最初に、自社がしていること(WHAT)を説明する~~「まったく新しい車の登場です」。

次にどんな手法を取ったかを説明する~~「豪華革製シート、驚異の低燃費、低金利」。

そして、さあ購入しましょうと呼びかけ、見返りを期待する。



だが、傑出したリーダーや組織は、そんな真似はしない。


かれらは皆、円の内側から外側への順で考え、行動し、コミュニケーションをとっている。



再びアップルの話に戻り、スティーブジョブズが実際にコミュニケーションした順番に書きかえると・・・。



現状に挑戦し、他者とは違う考え方をする。それが私たちの信条です。

製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取り扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています。

その結果素晴らしいコンピュータが誕生しました。

一台、いかがです?



ふたつのメッセージは、まったく異なるものになっている。


アップルのメッセージはWHYから始まっているのである。

つまりそれは目的、大義、理念であり、WHATとは何の関係も無いともいえるもの。


アップルを市場で傑出した存在にしているのは、物ではなく、説明しにくいもの、真似るのが無理なもの、である。


先ほどの二つのメッセージを見ればわかるように、人々はあなたのWHAT(モノやしていること)を買うのではない。あなたがそれをしているWHY(理由や意義)を買うのである。


~ここまで、サイモン・シネックの「WHYより始めよ!」より~



サイモン・シネックのこの「ゴールデン・サークル」の考え方は、TEDの映像で見ることができます。


上に要約した内容を、彼の独特な語り口で伝えています。


まだという方はぜひ見てみてください。


サイモン・シネック

「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」





今回は仕事の「WHY(そのことをする理由、仕事の本来の目的や意義)について考えてみました。

ぜひこの機会に、ご自分の仕事のWHYについて、考えてみてはいかがでしょうか。

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